オランウータンQ&A
本コーナーは久世濃子WEBサイト【OrangutanLab.】より移植しました。
最終更新2017年。その後の最新知見は追って更新する予定です。
生態・形態・行動に関するQ&A
Q. オランウータンは寿命は何歳ですか?
A. 正直言って、オランウータンの寿命はまだわかっていません。
最近では、スマトラの野生オランウータンの寿命は、少なく見積もってもオスで58歳以上、メスで53歳以上(53歳の時点で赤ん坊を連れていてまだ健康だったので、それ以上生存している可能性大)、という報告があります(Wich et.al. 2004)。
飼育下での世界最高齢は、ボルネオオランウータンでジプシー(メス・多摩動物公園)推定62歳(2017年没)、
スマトラオランウータンでも、Puan(メス・パース動物園)が推定62歳(2018年没)(ギネス記録より判断)です。
また、オスの飼育下世界最高齢はボルネオオランウータンのJojo(シンガポール動物園)で推定61歳(2018年没)です。
Q. オランウータンはヒトに最も近い動物ですか?
A. ヒトに最も近いのは、オランウータンではなく、チンパンジーです。
チンパンジーとヒトの共通祖先が別れたのはわずか600万年前ですが、オランウータンとヒトの共通祖先が別れたのは1500万年も前です。つまりチンパンジーはオランウータンよりも人間と近縁な関係なのです。わかりやすく例えるなら、人間とチンパンジーは同じアフリカで生まれ育った兄弟、オランウータンは遠いアジアで生まれた従兄弟、といえるでしょう。
Q. オランウータンはヒトの次に賢い動物ですか?
A. オランウータンはチンパンジーと並んでヒトに次ぐ高い知能を持っています。
手話やサイン言語を使ったり、鏡に映った姿が自分だと認識できる(鏡像認知)、など基本的にチンパンジーでできることはオランウータンもすることができます。またオランウータンは野生下ではほとんど道具を使いませんが、飼育下やリハビリテーションセンターでは、非常によく道具を使います。
チンパンジーの方が遺伝的にヒトに近いので、オランウータンより賢いだろう、と思われることがあります。しかしオランウータンよりヒトに遺伝的に近いとされているゴリラの方が、鏡像認知をうまく行うことができない、などオランウータンよりも認知実験の結果が悪い、という傾向があります。
最近は、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、ゴリラの大型類人猿4種を対象に、同じ実験を行って比較する研究が盛んになってきています。今後は「オランウータンの知性」についても多くのことが明らかになっていくでしょう。
Q. オランウータンは肉食をしますか?
A. 非常に稀ですが、オランウータンが肉食した例は報告されています。
全てスマトラ島での観察で、偶然みつけたギボンの死体を食べたのが1例(Sugardjito & Nurhuda, 1981)、スローロリスを食べたのが7例(Utami & van Hoof, 1997)、報告されています。スローロリスに関しては7例中2例では、オランウータンが生きているスローロリスを捕まえて、捕食したのが観察されています。しかし、同一地域で20年以上(20,000時間以上)観察して、たった7例(ギボン1例とスローロリス6例は同じ調査地での観察、スローロリス7例中1例はスマトラ島内の別の調査地での観察)しか観察されていないので、かなり稀な行動だといえます。またこれらの肉食は全てオトナのメスによるもので、オトナのオスが肉食した例は観察されていません。結論としては、オランウータンは機会があれば肉食をすることもあるが、野生では滅多に肉食することはない、といえます。ちなみにスローリスとギボン以外では、ハイイロキノボリネズミ(学名:Lenothrix canus)、不確かながら幼鳥と(鳥の)卵を食べた、という報告があります。
オランウータンを「完全な菜食主義者」とする記述もあるようですが、ボルネオ島でもスマトラ島でも、ほとんどの調査地で、多くの個体が時々(採食時間の数%)、アリやシロアリなどの無脊椎動物を食べていることが観察されていますし、機会があれば(非常に稀ですが)肉食もしますのでは、厳密には菜食主義者とは言い難いでしょう。
Q. オランウータンは何を食べますか?
A. 主な食べ物は果実、葉、樹皮です。花、着生植物、ショウガ、キノコ、シロアリや、アリなどの昆虫を食べることもあります。
オランウータンは「果実食者」といわれることが多いですが、その名のとおり、質のよい果実があれば、果実を食べ続けます。またどこの調査地でも、もっとも高い頻度で採食している食物は果実です。しかし東南アジアの熱帯雨林は、数年に一度しか実をつけない果実が多いために、果実がない時期もめずらしくありません。スマトラ島では一年中、森のどこかで実をつける性質があるイチジクの木が多いので、ドリアンなどの質のよい果実が手に入らない時でも、イチジクを食べることで、果実を食べ続けることができます。しかしボルネオ島では、イチジクすらも手に入らないことが珍しくないので、新葉や樹皮などを食べることがよくあります。またオランウータンは「食いだめ」をする性質があり、ドリアンなどの質のよい(栄養価の高い)果実があると、これらをひたすら食べて体内に脂肪を蓄え、果実がなくなると、この体脂肪を消費しながら、葉や樹皮などの質の低い食物を食べて飢えをしのいでいます(Knott, 1998)。
オランウータンが食べる植物の種類は非常に多く、今までに報告されているだけでも107科316属831種(12ヶ所の調査地の合計)にのぼり、調査の長期化と調査地の増加に伴い、この値は現在もさらに増加しつつあります。このようにオランウータンの食物が多様である原因としては、そもそもオランウータンが生息する熱帯雨林の種多様性が非常に高いために、ある調査地にある植物が別な調査地にはない、ということが珍しくないためであろう、と考えられています。実際、3ヶ所の調査地から報告された502種の食物のうち、2ヶ所以上で採食されていたのは32種しかなかったという報告もあります(Rodman, 1988)。
Q. オランウータンの天敵は何ですか?
A. 最も強力な捕食者はずばり、人間です。
現在、オランウータンは人間の様々な活動によって絶滅の危機に瀕しています。しかし、人間とオランウータンのこうした関係は、最近始まったことではありません。少なくとも1万年前まではオランウータンはタイ、マレーシア半島、ベトナム、中国南部などのアジア大陸にも生息していました。これの地域に現在オランウータンが生息していないのは、人間に大量に狩猟されたことが一因だろう、と言われています。いくつかの遺跡では、たくさんの有締類の骨と一緒にオランウータンの歯が大量に出土しており(Dobois, 1922; Hooijer, 1948)、当時の人間にとって、オランウータンも主要な狩猟対象だったと考えられています。
他にはウンピョウ、スマトラトラ(スマトラ島にのみ分布)がオランウータンの捕食者として考えられています。セピロクでは、コドモのオランウータンがニシキヘビに食べられてしまったこともあります。しかしコドモはともかく、体が大きく力の強い、しかもほとんど樹上にいるオトナのオランウータンを捕食することは、人間以外の動物には非常に難しいでしょう。
Q. オランウータンのはどんな病気にかかりますか?
A. 基本的に人間がかかるすべてのほぼすべての病気にかかると思います。野生下でも結核、肝炎、日本脳炎、テング熱、マラリア、おたふく風邪などに感染していることがすでに報告されています(Wolfe et. al. 2002, Kilbourn et. al. 2003)。飼育下では腎不全や肺炎、ガン、糖尿病などもあります。セピロクでは肺炎や気管支炎、寄生虫にかかる個体がとても多く、寄生虫がもとで死亡した個体もいました。
Q. オランウータンは握力が300kgあると聞きましたが、本当ですか?
A. ギネスブックには、オランウータンの握力294kgという記録が掲載されているようですが、根拠は明確ではないようです。確かにオランウータンは大きな体で樹上生活をしており、体重80kg以上あるオトナのオスでも、指1本だけでぶら下がることができます。握力はヒトよりもはるかに大きいだろうと予想できますが、握力200kg、300kgといった値の根拠になるような科学的なデータは、私の知る限り、まだ発表されていません。
Q. オランウータンは泳げますか?
A. 野生のオランウータンは基本的には泳ぎません(泳げません)。動物園では、水に入って水遊びをすることがあり、リハビリテーションセンター出身のオランウータン(母親を殺されて人間に育てられた個体)が、川を泳ぐようになったという報告はあります。2009年にWWFマレーシアが洪水で木の上に取り残されたオランウータンが、人間が投げたロープを使って「泳いだ」と報告しています。野生のオランウータンも非常事態には水に入るかもしれませんが、同じ森に住んでいるテングザルがよく泳いで川に渡るのに比べると、オランウータンは「泳がない」といえます。また集団遺伝学の研究からも、オランウータンは大きな川の両岸では遺伝的に異なったグループになることが多いので、川が移動を妨げているのだろうと、言われています(Jalil et. al. 2008)。同じ研究グループがテングザルは川の両岸で遺伝的にほとんど違いがないことも明らかにしています。
Q. オランウータンは何年ごとにコドモを生むのですか?
A. スマトラでは平均9年に1回、ボルネオでは平均6〜7年に1回、との報告があり、霊長類の中では最長です。また1回に生むコドモの数は1頭、双子の記録は非常に稀で、(私が知る限り)アメリカの動物園で1例、野生では2007年に初めて報告がありました(サバ州キナバタンガン川流域)。またセピロクでも過去に1例だけ記録されています。妊娠期間は平均270日(9ヶ月)で、授乳期間は2年半〜3年です。
Q. オランウータンは何歳でオトナになるのですか?
A. まずコドモが母親から独り立ちするのは、スマトラ・オランウータンで8〜10歳、ボルネオ・オランウータンで6〜8歳と言われています。しかし独り立ちする頃のオランウータンはまだ体も小さく、オトナとはいえません。この頃のオランウータンは、人間の中高生くらいの年頃で、ワカモノ(青年、Adolescent)と呼ばれています。
オトナと同じ位の体の大きさになるのは、オスで15歳、メスで10歳と言われています。大体この頃に性成熟に達しますが、実際に野生下でメスが最初のコドモを出産するのは、13歳〜18歳と考えられています。野生下でオスがいつ頃初めて父親になるのかははっきりわかっていませんが、20歳以降だろうと考えられています。またオトナのオスに二つのタイプ、(1)フランジ(顔の両側にフランジという張り出しのある体の大きなオス)と(2)アンフランジ(フランジがなく体の大きさはメスと同じくらい)、がいます(オスについては下記参照)。
Q. オランウータンの体重は何キロですか?
A. 野生ではメスの体重35〜40kg、オスは80kg前後だろうと考えられています。動物園ではオスは100kg以上になることもめずらしくありません。特にボルネオでは、非果実季といって数ヶ月から数年、果実をほとんど食べられない時期があります。オランウータンは数ヶ月の短い果実季の間に「食いだめ」をして脂肪をたくわえ、長い非果実季には樹皮や葉などを食べながら、脂肪を消費して耐えています。このためオランウータンは類人猿の中でも特に太りやすく、ちょっとエサを与え過ぎと、どんどん体重が増加してしまいます。
Q. オスの顔の両側にあるでっぱりは何ですか?
A. オトナのオスの顔の両脇にある張り出し(でっぱり)は「フランジ(Flange)」と呼ばれています(以前はCheek-Pad、頬だことも呼ばれていましたが、最近は「フランジ」が最もよく使われています)。張り出しの中身はコラーゲンと脂肪で、触るとぷよぷよしています。
フランジは強いオスの「しるし」で、弱いオスは何歳になってもフランジが大きくなりません。しかしひとたび強いオス(フランジがあるオス)がいなくなると、アンフランジ(弱いオス)は急激にフランジを発達させて、1年以内にフランジのあるオスに変わってしまいます。
スマトラでは18年間その地域で一番強かったフランジが新しく他の地域から移住してきたフランジ雄とケンカをして負けたところ、20年以上、アンフランジだったオスが、急にフランジに変わって、移住してきた雄に挑戦を始めた、という報告もあります(Utami and Setia 1995)。
オスをコドモの頃から1頭だけで飼育していると、全てのオスがフランジになりますが、フランジからアンフランジに戻ることはありません。またフランジのあるオスもないオスも繁殖能力があり、野生でも飼育でも子供を作っています。
それからフランジのオスは大きな「のど袋」も持っていて、「ロング・コール(long call)」と呼ばれる、独特の音声を発します。
Q. 「ロング・コール」ってどんな音声ですか?
A. フランジのオスだけが発するもので、ぶくぶくと泡立つような音で始まり、叫えるような声で終わる音声で、800m先まで届きます。1〜2分間が続くのが普通ですが、数十秒で終わってしまうこともあります。自分の存在をアピールして、他のオスを牽制すると同時に、メスをよびよせる機能があるだろうと言われています(Mitani 1985)。
Q. オランウータンは一夫多妻ですか?
A. おそらく(性的二型が大きい=オスがメスよりもずっと大きいので)、もともとは一夫多妻だった可能性が高いですが、現在は実質的には乱婚と考えられています。
オランウータンのメスは6〜9年に1度しか発情しません(受胎可能な状態になりません)。メスは発情の時期をむかえると、1ヶ月1回、2〜3日間だけ受胎可能になり、この時は自分からオスの方に近づいていきますが、普段はオスを避けて生活しています。オスは常にメスに近づこうとしていて、時にはメスをおさえつけて無理矢理交尾をすることもあります(このような交尾をレイプとよぶ研究者もいます)。オランウータンにはチンパンジーのような性皮がないので、メスが受胎可能でなくても、交尾が成立します。特にボルネオでアンフランジのオスが高い頻度でこのような強制的な交尾を行いますが(Mitani 1985)、メスに深刻なケガを負わせることはありません。
受胎可能なメスは複数のオスと交尾をしますし、フランジのオス(強いオス)でもメスを完全に他のオスからガードすることはできません。その一方で、フランジもアンフランジも複数のメスと交尾できます(同じ理由で他のオスに邪魔されることが少ないからです)。また長期研究が行われているスマトラでのDNA解析を使った父子判定の結果からも、コドモの父親は様々で、特定のオスがほとんどのメスを独占しているとか、メスがいつも同じオスとの間でコドモを作っているている、といった結果は得られていません(Utami et. al. 2002)。
Q. オランウータンでも子殺しがあるんですか?
A. 子殺しの報告は1例もありません。交尾の時にコドモが間に入って邪魔をすることがよくありますが、そんな時でもオスは攻撃的な行動をとることはほとんどありません。飼育下でもコドモに対して攻撃した例はほとんどなく、むしろ飼育下ではオトナのオスが積極的にコドモの世話をしたり、一緒に遊んだりすることも珍しくありません(野生下ではオトナのオスはコドモと関わることはほとんどない)。しかし母親は、オスがコドモに近づくことをとても嫌がるので、潜在的には子殺しの危険があるのではないか、と指摘する研究者もいます。
Q. オランウータンには縄張りがあるんですか?
A. 縄張りはありません。同じ地域を複数の個体が同時に利用することができます。1頭の木に2頭のオトナメス、2頭のオトナオス、2頭のワカモノ、合計6頭で採食していた例を私も観察したことがあります。ケンカもほとんど起こりません。
ただ、フランジのあるオス同士だけが敵対的で、普段は互いに相手を避けて生活しています。稀に発情したメスの近くでフランジ同士が出会い、激しい闘争が起きることがあります。オス同士のケンカがもとで死亡した例も報告されていますし、傷のあるフランジのオスが多いことからも、フランジのオス同士の間には非常に厳しい敵対関係があるといえます。しかしフランジのオスはアンフランジに対しては非常に寛容で、一緒に同じ木で採食することもあります。
Q. オランウータンは一日にどの位移動しますか?
A. 1日の平均移動距離は500m前後ですが、100m程度のことも珍しくありません。一方で1日に2km以上移動することもあります。フランジのオスは比較的短い距離しか移動せず、若い個体は長い距離を移動する傾向がありますが、同じ個体でも日によって大きく変わります。
Q. オランウータンとはマレー語で「森の人」という意味なんですよね?
A. 確かにマレー語の「Orang Hutan」は「森の人」という意味です。しかしこの名前はマレー語を覚えた白人がつけたもので、現地の人々が使っていたものではありません。もともとはKogiu、Kahui、Kisau、Maiasなど、それぞれの民族が異なる名前で呼んでいました。しかし今では、現地でも「Orang-Utan」が最も広く使われています。
保護活動に関するQ&A
Q. オランウータンは絶滅の危機に瀕していると聞きましたが、今、野生のオランウータンは何頭ぐらいいますか?
A. 2004年の時点で野生のオランウータンの生息数は、推定でスマトラ島に約6,500頭、ボルネオ島に約54,000頭、合計約60,500頭と言われています(Wich et. al., 2008)。
ちなみに有史以前にはスマトラには38万頭、ボルネオには42万頭、マレーシア半島に34万頭、ジャワ島にも少なくとも10万頭のオランウータンが生息していたと考えられます(Rijksen & Meijaard, 1999)。またジャワ島からオランウータンが絶滅したのは、17世紀だっただろうと言われています(Dobson, 1953)。
Q. オランウータンを絶滅の危機から救うために、私たちができることはありますか?
A. できることはいくつかあります。
(1)ボルネオ島をエコツアーで訪問する。
オランウータンはボルネオ島とスマトラ島に生息していますが、短期間で安全、確実にオランウータンに会うことができるのは、ボルネオ島マレーシア領、サバ州です。セピロク・オランウータン・リハビリテーションセンターを訪問し、入場料を払ったり、寄付をすることも、オランウータンの保護には役立ちます(セピロクで得られる収入はサバ野生生物局の重要な財源で、このお金が州全域の野生生物保護事業に使われています)。
またスカウでは、村人に家にホームスティして野生オランウータンの調査地を訪れる、という本物の「エコツアー」にも参加することができます。多く観光客がこうしたエコツアーに参加し、地元の人々が収入を得ることが、その土地の自然保護、野生生物保護につながっていきます。
参考:
Red Ape Encounters(スカウ村の村人が設立した旅行会社。英語のみ)
エコ ボルネオ(2006年夏に発売された別冊山と渓谷「エコ ボルネオ」のオフィシャルサイト)
エコツアーでマレーシア再発見(スカウなどエコツアー・スポットの情報だけでなく、マレーシアの自然とそれをとりまく状況も紹介されている)
(2)パーム油(植物油脂)を含んだ製品は慎重に選ぶ
今オランウータンが住む熱帯雨林に最も脅威を与えているのは、オイルパームの大規模農園(プランテーション)です。
「地球にやさしい天然成分(植物成分)をつかっています」とうたっている商品の原料となっているパーム油が、じつは熱帯雨林を破壊して作られているのです。最近では先進国での健康志向から植物性原料としてパーム油の需要は急増しており、これがインドネシア・マレーシアでの森林伐採→オイルパームの大規模農園の開墾に拍車をかけています。
しかしパーム油は洗剤だけでなく、化粧品、ラーメンなどのインスタント食品、スナック菓子、アイスクリームなど多くの商品に使われているので、私たちがパーム油を使わないで生活することは、ほとんど不可能です。最近では、環境に配慮した形でパーム油を生産を行おうと、というグループ「持続可能なパーム油のための円卓会議 (Roundatable on Sustainable Palm Oil:RSPO)」もできています。日本の多くの消費者が「環境に配慮して生産したパーム油」を求めるようになれば、現地でもそうした動きが加速するでしょう。逆に多くの消費者が「安い天然成分(植物成分)」だけを求めるなら、オランウータンの森はますます破壊されていきます。まずは、「地球にやさしい天然成分(植物成分)をつかっています」とうたっているだけの製品は、慎重に選びましょう。
参考:ボルネオ保全トラスト(サバ州で、土地を買い取って、ゾウやオランウータンが移動できる「緑の回廊」を作ろう!というトラストの日本窓口。)
財団法人 地球・人間環境フォーラム(『ライオン「新トップ」のCMに関する要請書』を提出している。私もあのCMはひどいと思う)
サラヤ株式会社(サバ州でオイルパーム農園周辺できずついたゾウの救出活動などを支援。RSPOにも参加。)
BBEC(サバで行われているJICAの大型プロジェクト。「パーム」でサイト内検索をするとRSPOの内情など詳しい情報がある)
(3)FSC認証商品を選ぶ
インドネシアでは国立公園の中でさえ、違法な森林伐採が大規模に行われており、オランウータンの住む森がどんどん破壊されています。こうして伐採された木材は、マレーシアやシンガポールなどを経由して「合法的に伐採された木材」として、日本や中国、アメリカなど各国に輸入されています。さらにインドネシアで天然林を皆伐して作った紙が、日本で安価なコピー用紙として販売されています(詳しくは熱帯雨林ネットワークなど)。
こうした違法な伐採や破壊的な伐採ではなく、より環境への負荷が少ない方法で管理されている森林からから産出された木材や木材製品にロゴマークをつけ、流通させようという、FSC認証制度があります。私たち消費者がこうした製品を選ぶことで、現地での森林利用の形態を変えていくことができます。
例えば、サバ州には、東南アジアでは数少ないFSC認証を受けているダラマコット森林保護区があります。ここでは慎重に森林伐採がすすめられている結果、現在でもオランウータンやボルネオゾウなどの多くの野生動物が生息しています。違法な森林伐採が行われている所では、同時に野生動物の密猟も横行します。しかし厳しい管理の下で伐採が行われている場所では、結果的に密猟も防ぐことができます。
(4)オランウータンや熱帯雨林を守る活動をしているNGOに参加する
日本や世界には、オランウータンの保護活動を行っている団体がいくつかあります。これらの団体の会員になる、寄付をする、ということを通してオランウータンの保護活動に参加することもできます。大きな団体は活動も大規模ですが、個々の会員が主体的に活動に関わるのは難しい場合があります。小さな団体では実際の活動に参加しやすい反面、突然活動が休止したりと不安定な部分があります。まずは各団体のホームページをみて、自分にあった団体を探してみましょう。
Q. リハビリテーションセンターでボランティアをしたい!どうすればいいの?
A. まず、日本のテレビでよく紹介されるサバ州のセピロク・オランウータン・リハビリテーションセンターでは、現在外国人のボランティアは基本的に受け入れていません。ボランティアとして受け入れられる人数には限りがあり、原則マレーシア人のみとなっています。
ボルネオ島インドネシア領中央カリマンタンのタンジュンプティン国立公園とその近くにあるリハビリテーションセンター(ケアセンター)では、Orangutan Foundation International (OFI)がボランティアを受け入れてくれることもあるそうです。ボランティア希望者は、OFIのサイトで最新情報をチェックしたうえで、直接OFIに問い合わせて下さい。
また最近では、ボルネオ島インドネシア領カリマンタン島でオランウータンのリハビリテーション事業を行っているBorneo Orangutan Survival Foundation(BOS) のSamboja Lodgeでは、オランウータンの為に食物の準備をしたり、植林を行うボランティア・プログラムがあるようです(オランウータンを直接触って世話をするプログラムはない)。ボランティア希望者は、BOSのサイトで最新情報をチェックしたうえで、直接BOSに問い合わせて下さい。
インドネシアには他にも何カ所かオランウータンのリハビリセンターがありますが、原則外国人のボランティアは受け入れていないと思います。これはボランティアがするような仕事(オランウータンの世話など)は、給料を払って雇った地元の人にやってもらおう、というのが現在の保護活動の主流だからです。こうすることで地元に雇用を生み、さらに地元の人はリハビリセンターで働くことでオランウータンや保護活動への理解を深めることもできます。こうした事業を通じて、将来的には地元の人が主体となってオランウータンの保護活動を展開する、というのが多くのリハビリセンターの目指している姿なのです。